循環が示す資本主義の本質と機能不全の原因

貨幣循環のプロセスを通じて、資本主義経済の基本構造と、その健全な運営に必要な条件が明らかになります。ここでは、その意味と資本主義が機能不全に陥る状況を整理します。

貨幣循環から見える資本主義の本質

1. 支出が先、収入が後
   一般的には、「収入があって初めて支出ができる」と考えがちですが、企業活動においてはその逆です。
   • 支出の先行性：企業は収入がなくても、資金需要と返済能力が認められれば、民間銀行から融資を受けて支出を行えます。この支出が経済に貨幣を供給し、需要を喚起します。
   • 貸出しが貨幣の創造：銀行は「無から」貨幣を創造するため、経済全体の貨幣供給は企業の資金需要に依存します。
2. 貨幣の創造と破壊
   • インフレ圧力：貸出し（貨幣創造）による支出が、経済に貨幣を供給し、需要を押し上げます。これが「実線の矢印」にあたります。
   • デフレ圧力：企業が収益を用いて債務を返済すると、貨幣が破壊されます。これが「点線の矢印」に該当し、経済の貨幣供給量を縮小させます。
3. 債務の存在が貨幣の流通を維持する
   • 経済全体で貨幣が流通するには、一定数の企業が債務を負い続ける必要があります。
   • 無借金経営の限界：一企業として無借金経営が望ましくても、全企業が無借金経営を行うと貨幣が消滅し、経済活動が停止します。
4. 適度なインフレが必要
   • 経済が健全に回るためには、インフレ圧力（貨幣創造）がデフレ圧力（貨幣破壊）を上回る必要があります。
   • マイルドなインフレ：資本主義が正常に機能するには、ややインフレ気味の状態が望ましいのです。これにより、貨幣が経済内を活発に循環します。

資本主義が機能不全に陥る時

1. デフレ圧力の優位
   • 貸出し（貨幣創造）が縮小し、債務返済（貨幣破壊）が上回ると、貨幣供給が減少します。
   • 貨幣の流通量が減ることで、消費や投資が停滞し、経済全体が縮小します。
2. 企業の資金需要の減少
   • 経済が不況に陥ると、新規事業の意欲が低下し、資金需要が減少します。
   • 銀行も貸し出し先が減るため、貨幣創造が滞り、さらに経済が停滞します。
3. 過度な金融抑制政策
   • 財政緊縮や過度な規制により、銀行の貸出し能力が制限されると、貨幣創造が減少します。
   • これにより、経済成長のエンジンが停止します。
4. 需要不足によるデフレスパイラル
   • デフレが続くと、企業はさらに支出を控え、消費者も購買を先送りします。この悪循環がデフレスパイラルを生むのです。

正常な資本主義の条件

• 貨幣創造を促進する環境：企業の資金需要を喚起する政策（減税、規制緩和など）が必要です。
• 適度なインフレ率の維持：過度なインフレを避けつつ、物価上昇率が安定的にプラスを保つことが重要です。
• 信用創造の円滑化：銀行の健全な貸出しを支えるため、返済能力のある借り手を育成する仕組みが求められます。

結論：貨幣循環を理解する重要性

貨幣循環は、資本主義経済を支える基本的な仕組みです。この循環が適切に機能することで、経済は成長し、社会全体の繁栄が実現します。一方で、このメカニズムが滞ると、経済は停滞し、格差や社会問題が拡大します。
政策立案者や企業経営者がこの仕組みを正しく理解し、それに基づく行動を取ることが求められます。