経済の話題

なぜ日本の財政赤字は減らないのか

財政赤字が拡大してきた理由は、単なる支出の多さではなく、むしろ「支出の不足」によるものです。この点を理解するには、経済全体の収支の関係を正確に捉える必要があります。


経済の基本方程式

経済全体では、以下の収支の関係が成り立ちます。
「民間部門の収支」+「政府部門の収支」+「海外部門の収支」=0

日本では、海外部門の影響(貿易収支など)を無視すると、次のように簡略化できます:
「民間部門の収支」+「政府部門の収支」=0

つまり、民間部門が黒字(貯蓄超過)であれば、政府部門は赤字(債務超過)にならざるを得ません。この関係は、基本的な経済原理として避けられないものです。


デフレと財政赤字の関係

日本は長期間のデフレの影響で、次のような状況に陥っています:

  1. 企業の投資縮小
    • デフレにより需要が低迷する中、企業は設備投資を控え、内部留保を積み上げる方向に走ります。
  2. 民間部門の貯蓄超過
    • 経済全体で見れば、企業が貯蓄を増やすことで「民間部門の黒字」が発生します。
  3. 政府部門の赤字拡大
    • 民間部門が黒字である限り、その裏返しとして政府部門の赤字が拡大します。

これにより、日本の財政赤字はデフレの継続によって固定化されているのです。


政府支出の不足が問題

1997年以降、財政支出の抑制が続けられましたが、それでも財政赤字が減るどころか拡大した理由は次の通りです:

  1. デフレ下での支出不足
    • 民間部門の黒字が拡大する中、政府が十分な支出を行わなかったため、赤字は減らないどころか拡大。
  2. 民間投資の停滞
    • 企業が貯蓄超過に陥り、需要不足の解消には至りませんでした。
  3. 需要不足の固定化
    • 財政支出が不十分なため、デフレ脱却に必要な需要の押し上げが実現しなかったのです。

財政赤字を減らすには

財政赤字削減の鍵は、デフレを脱却し、民間部門が積極的に投資を行う「投資超過」の状態を実現することです。具体的には次の施策が必要です:

  1. 積極的な財政支出
    • 公共投資や教育・福祉などへの支出を拡大し、需要を押し上げる。
  2. 減税による家計の支援
    • 消費税減税などで、消費者の可処分所得を増やし、需要を喚起。
  3. 企業の投資促進策
    • 研究開発や設備投資に対する優遇税制を導入し、企業の投資を誘導する。

結論

日本の財政赤字が減らないのは、政府支出が過剰だったからではなく、むしろ支出が不十分でデフレが解消されなかったためです。
財政赤字を本当に削減したいなら、デフレ脱却を最優先に据え、積極的な財政政策と経済対策を講じる必要があります。
無理やり赤字を減らそうとすれば、国民所得を減らすだけで、最悪の場合、恐慌を招く危険があります。