MMT(現代貨幣理論)は、シュンペーターの貨幣観や「貨幣循環理論」に影響を受けた理論です。以下、その関連性やポイントについて解説します。
1. シュンペーターと「貨幣循環理論」
シュンペーターは、銀行が「貨幣を創造する特殊な機関」であり、銀行の貸出を通じて預金という形で貨幣が創造される「信用創造」の仕組みを理解していました。この考え方を引き継いだのが「貨幣循環理論」です。
MMTもまた、銀行による信用創造を前提としており、これがシュンペーターの理解と一致しています。
2. MMTの特徴:「統合政府」の視点
MMTは「貨幣循環理論」と多くの共通点を持ちながらも、政府と中央銀行を「統合政府」として一体的に捉える点に特徴があります。この考え方をもとに、図表で示されるように、政府(統合政府)は以下のプロセスを経ます。
- 自国通貨を発行して民間経済に供給する。
- 徴税によってその一部を回収する。
これにより、次のことが導き出されます:
- 財政赤字は民間経済に貨幣を循環させるために必要不可欠である。
- 政府は自国通貨建ての債務を返済できないという状況には陥らない。
3. 財政赤字の必要性
自国通貨を発行できる政府にとって、財政赤字は経済に必要な貨幣を供給するための手段であり、財政赤字がなければ貨幣は流通しません。つまり、財政赤字の存在は民間経済を維持するうえで不可欠です。
実際、アメリカ、イギリス、日本などの先進国政府が自国通貨建ての債務を返済できなくなった例はありません。一方で、財政破綻が起こるのは次のケースに限られます:
- 自国通貨を発行できない政府(例:ユーロ加盟国)。
- 外国通貨建ての債務を抱える政府。
- 徴税権力が不十分な政府。
4. 税は財源ではない
MMTによれば、税の目的は財源確保ではありません。税は以下の目的のために存在します:
- 民間経済から余剰貨幣を回収し、インフレを抑制する。
- 政策目標(所得の再分配など)を実現する。
税が財源ではない理由は簡単です:
- 自国通貨を発行するのは政府です。
- その通貨を民間に供給したのも政府です。
- 徴税とは、政府が供給した通貨の一部を回収する行為にすぎません。
シュンペーターもこの考え方を支持しており、次のように述べています:
「中央当局がはじめに一度所得を渡しておきながら、その後でその一部分を取り返すべく受領者を追いかけ回すのはばかげている。」
5. MMTの結論
MMTは、次のような結論を導きます:
- 財政破綻の可能性がない自国通貨建て政府にとって、財政の収支均衡を気にする必要はない。
- 政府支出や課税が経済に与える影響(例:インフレの抑制や供給力の強化)に重点を置くべき。
- 税は財源ではなく、政策手段である。
まとめ
MMTは、シュンペーターや「貨幣循環理論」の貨幣創造の理解を基に、税が財源ではないことを示します。これにより、財政赤字や政府支出が経済運営において重要な役割を果たすことが明らかになります。政策の焦点は「経済の安定と成長」に置かれるべきであり、財政赤字や収支均衡に固執する必要はないと主張しています。