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政府支出が先、税金は後——貨幣の本質と経済政策の誤解を解く

現代日本において、財政政策に関する議論では「財源がないから増税が必要だ」というフレーズが頻繁に聞かれる。しかし、この前提自体が誤りであり、根本的な貨幣と財政の仕組みに対する理解が不足している。

◆スペンディング・ファーストの原則

政府は自国通貨を発行する立場にある。これが意味するのは、「政府が支出するからこそ通貨が流通し、国民がその通貨を使うことができる」ということだ。これを「スペンディング・ファースト(Spending First)」と呼ぶ。

仮に王様がいる新しい国を想像してみよう。道路や橋を作るために王様は労働を国民に依頼する。その対価として、自ら発行した貨幣を渡す。この段階では、まだ税金は存在しない。しかし、貨幣が国中に流通し、使われるようになると、次に王様は「税金を納めなければ罰する」と宣言する。このことで、国民は貨幣を必要とし、貨幣の価値が生まれる。

つまり、「先に貨幣を発行し、後で税金を徴収する」という順序が正しいのである。決して「税金を集めないと支出できない」のではない。

◆税金の役割とは

税金には、主に以下の4つの役割がある。

  1. インフレ抑制:過剰な貨幣流通を抑え、物価上昇を防ぐ。
  2. 格差是正:高所得者に高い税率を課し、所得格差を緩和する。
  3. 産業保護:関税を課して国内産業を守る。
  4. 行動抑制:タバコ税や酒税のように、特定の消費行動を抑制する。

重要なのは、「財源確保」は税金の主目的ではないということだ。政府は自ら貨幣を発行できるため、「税金を集めなければ支出できない」という家計簿感覚の発想は誤りである。

◆政府債務と国民資産

よく「国の借金が1000兆円を超えた」「国民一人当たり○○万円の借金」と煽られる。しかし、これは事実を歪めた表現だ。政府債務は国民にとっては金融資産であり、「政府の負債=国民の資産」という関係が成り立つ。

住宅ローンに例えれば、1億円の住宅ローンを抱えていても、同時に1億円の住宅という資産があるならば、単純に借金だけを取り上げるのは意味がない。政府も同様であり、インフラや公共サービスといった資産が存在する。

◆財政破綻の誤解

日本の国債はすべて円建てであり、日本政府は円を無限に発行できる。つまり、デフォルト(財政破綻)は理論的にあり得ない。ギリシャなどの例は、外貨建て国債の返済不能によるものであり、日本とは状況が異なる。

◆ハイパーインフレの現実

しばしば「お金を刷りすぎるとハイパーインフレになる」と恐れる声がある。しかし、日本の戦後直後のハイパーインフレは、貨幣発行ではなく、生産能力が壊滅し供給不足に陥ったことが原因だ。物資不足の状況で需要だけが膨らんだ結果であり、供給能力さえ維持されれば、過剰なインフレは起きにくい。

◆政策転換の必要性

日本経済停滞の根本原因は、「財政赤字を恐れ、必要な公共投資や減税を怠ってきたこと」にある。社会インフラは老朽化し、予防保全を怠ると事故や災害のリスクが増大する。事後対応は、予防に比べて2倍以上のコストがかかることも珍しくない。

財政均衡主義に固執し、消費増税を繰り返してきた結果、国民負担は増し、消費が冷え込み、経済は長期停滞に陥った。これこそ「失われた30年」の正体である。

◆今必要なのは積極財政と減税

政府が国債を発行し、公共事業や社会保障に資金を投入すれば、経済に資金が回り、雇用も生まれる。所得税や消費税の減税は、国民の可処分所得を増やし、消費を活性化させる。これにより、経済成長の好循環が生まれる。

経済政策は、「財政赤字を減らす」ことではなく、「国民生活を豊かにする」ことを目的とすべきだ。

税金とは、国民に負担を強いるものではなく、「安定した経済と公正な社会を築くための調整弁」である。その本質を見誤れば、国も国民も疲弊し続けることになる。

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