日本、アメリカ、イギリスなどの政府は、
中央銀行を通じて自国通貨を発行し、
これにより債務を返済する特権を持っています。
しかし、政府が支出を増やし過ぎると、
需要が供給を超えてしまい、
高インフレにつながる可能性があります。
この場合、インフレを抑えるために、
政府は支出を減らし、
中央銀行は金融政策を引き締める必要があります。
言い換えれば、
政府支出の限界はインフレ率によって決まります。
主要な先進国を見ると、
欧米のインフレ率はすでに8%から10%の範囲にあり、
これは政府の財政出動の限界に達していることを示唆しています。
一方で、日本のインフレ率はこれほど高くなく、
主に輸入物価の上昇による一時的なインフレが見られますが、
これは持続性が低いとされています。
英米と日本の間にインフレ率の差がある理由の一つは、
英米が需要超過の経済状態にあるのに対し、
日本は依然として需要不足に苦しんでいることです。
このため、インフレ率だけでなく、
GDPギャップの動向も財政政策の計画において重要な要素となります。
GDPギャップは実際のインフレ率よりも早く動く傾向があり、
実際の経済状況を反映するために重要です。
国際的な比較では、アメリカは2021年に、
イギリスも2022年に需要超過に達しており、
インフレ率の上昇につながっています。
しかし、日本は2022年時点でも
依然として大きな需要不足が続いています。
日本では、
GDPギャップと消費者物価のインフレ率の関係を詳しく分析すると、
インフレ率を2%の目標に達成するためには、
GDPギャップを約15兆円のプラスにする必要があります。
現在、日本のGDPギャップは約-3%、
つまり約-15兆円であり、これをプラスに転じさせるためには、
さらに15兆円の需要増加が必要です。
これにより、
合計で約30兆円の需要拡大の余地があることが示されています。
結論として、日本ではまだ財政政策を拡大する余地があり、
インフレ率が一時的なコストプッシュインフレの後に2%に安定するまで、
需要拡大を図ることが可能です。
市場の見方によれば、
日本はG7諸国中でドイツに次ぐ低リスク国とされています。
これは、クレジットデフォルトスワップ(CDS)による
5年以内のデフォルト確率が0.33%と、
G7国中で2番目に低いことから明らかです。
これに対し、英国のデフォルト確率は0.70%と、
日本の2倍以上に上り、G7国の中でイタリアに次いで高い水準にあります。
日本国債が高い信頼を得ている背景には、
国際比較で見た際の複数の経済指標が関係しています。
2021年時点でのG7諸国の
政府純債務/GDP比率、
経常収支/GDP比率、
対外純資産/GDP比率
政府債務対外債務比率の4つの指標を比較すると、
日本は政府純債務/GDP比率では
最もリスクが高い位置にありますが、
他の3指標では非常に強いポジションにあります
具体的には、
対外純資産/GDP比率と政府債務対外債務比率でトップ、
経常収支/GDP比率ではドイツに次いで2位となっています。
これらの指標は、
日本が相対的に財政リスクが低い国であることを示しています。
一方、英国は
政府純債務/GDP比率と
政府債務対外債務比率で
G7国中3番目に低いものの、
経常収支の赤字が大きく、
対外純債務/GDP比率も高いことが指摘されています。
これは、
経常赤字と対外純債務が高い国が
インフレ率の加速とともに財政支出を増やすと、
財政リスクが高まる可能性があることを意味しています。
総合的に見ると、
基軸通貨国ではないにもかかわらず、
対外純資産が豊富で経常収支が健全な日本は、
インフレが進行する中でも財政支出の拡大が
比較的安全な国と言えます。
これは、
日本の経済政策において大きなアドバンテージとなっています。
日本政府は、
2025年までにプライマリーバランス(PB)を黒字化し、
債務残高対GDP比率を安定的に引き下げることを
財政健全化の目標としてきました。
しかし、コロナショック以前、
財政リスクが高いとされるイタリアでもPBが黒字であった事実や、
海外の経済学者や米財務省が
「政府債務残高/GDP」から「政府純利払い費/GDP」へと
財政健全性の指標をシフトしている動きを鑑みると、
日本の財政健全化のアプローチも
国際基準に合わせて更新する必要がありそうです。
G7諸国の「政府純利払い費/GDP」を比較すると、
日本はカナダやドイツに次ぐ低い水準にありますが、
英国はイタリアに次いで高い水準に位置しています。
これは、
財政健全化の目標を完全に撤廃することのリスクがある一方で、
日本独自の財政健全化目標が経済の正常化や
財政・金融政策の障害となってはならないことを示唆しています。
PBとGDPギャップの連動性に注目すると、
経済の正常化が進めば自然と
財政も健全化する可能性があります。
過去のデータからは、
PBとGDPギャップの関係が密接であることが示されています。
そのため、
短期的にはGDPギャップをプラスにすることを最優先し、
財政健全化の目標を見直すことが求められます。
新たな財政目標としては、
「コアコアCPI+2%のインフレ率」
「中央銀行保有分を除く政府債務残高GDP比の安定」
「財政支出の有効性」が適切でしょう。
これらは、
インフレ率の安定化、
中央銀行による国債保有の効果を考慮した債務管理、
そして経済成長に貢献する
効果的な財政支出に焦点を当てたものです。
GDPギャップをプラスに転じさせることができれば、
財政目標に「数年以内にPBの黒字化を目指す」という
目標を加えることも検討できます。
GDPギャップが+15兆円の需要超過に達すると、
インフレ率も2%の目標に近づき、
金融政策の出口戦略も見えてきます。
結論として、
日本の財政健全化への真の道は、
国際基準に即した新しい指標へのシフト、
経済正常化を通じた自然な財政健全化、
そして経済成長に資する効果的な財政支出への焦点化を通じて、
より実現可能で持続的なものとなります。