資本/所得比率の力学—格差拡大を防ぐために
本記事では、歴史的なデータに基づいて、資本と所得の関係やその動向を解説し、特に資本/所得比率が格差に与える影響について考察します。このテーマは、トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』を参考にしたもので、資本主義がどのようにして富の集中をもたらすか、またその解決策として累進資本税が提案される理由を掘り下げていきます。
所得と資本の基本概念
所得は、資本所得と労働所得の2つに大別されます。資本所得は利潤や配当など、資本の所有者に支払われるもので、労働所得は賃金や給与といった労働者の報酬を指します。国民所得は「資本所得」と「労働所得」の合計です。
資本/所得比率とは
資本/所得比率は、国全体の資本(総財産)が年間所得に対してどの程度かを示す指標です。たとえば、資本ストックが国民所得の6年分に相当する場合、資本/所得比率は6(600%)となります。先進国ではこの比率は5~6が一般的です。
資本主義の基本法則「β = s/g」
資本/所得比率は、貯蓄率(s)と経済成長率(g)の関係で長期的に決まります。貯蓄率が高く成長率が低い場合、資本/所得比率は上昇しやすく、資本が所得の中で大きな割合を占めるようになります。たとえば、貯蓄率12%、成長率2%の場合、資本/所得比率は600%に達します。
資本/所得比率の変動と格差拡大
資本/所得比率の上昇は、資本が所得全体に占める割合(資本シェア)を増加させます。資本収益率(r)と資本/所得比率(β)を用いて、資本シェアは「α = r × β」で表されます。たとえば、資本/所得比率が6(600%)で資本収益率が5%の場合、国民所得の30%が資本所得となります。このような状況が進めば、18~19世紀のように資本が大部分を支配する社会が再現される恐れがあります。
格差の構造と将来の展望
歴史的に、資本は労働よりも不平等に分配される傾向があります。労働所得の上位10%が全労働所得の25~30%を稼ぐ一方、資本所得の上位10%は50%以上を所有しています。今後も、資本収益率が経済成長率を上回る「r > g」の状態が続く限り、富の集中は進み、格差はさらに広がるでしょう。
21世紀の資本規制と累進資本税の提案
著者は、富の集中を防ぐための手段として、グローバルな累進資本税を提案しています。これは富裕層に対して継続的に課される税金であり、国際的な協力や金融の透明性が必要です。累進課税の導入は現実的には難しい挑戦ですが、格差の拡大を抑え、資本主義を持続可能にするための理想的な解決策と考えられています。
結論
資本/所得比率が上昇することで富の集中が進み、格差が拡大する力学が明らかです。これに対処するためには、累進資本税のような新しい再分配の仕組みが必要であり、グローバルな協力が欠かせません。今後も、資本主義社会において、いかにして公平な富の分配を実現していくかが課題となるでしょう。
良かったら読んでみて下さい!